Embedding

継承の一つの可能な解釈は、ホストオブジェクトが donor オブジェクトの attribute の複製を含んでいることである。これを、継承の embedding 解釈 または、単に embedding という(図4-1)。

• embedding は「呼び出しの受側」として selfの標準的意味を 最も簡単に説明することができる。embedding 解釈 において、継承メソッド呼び出しは、ちょうど original メソッド呼び出しを 意味する。

• embedding はプロトタイプベース言語において最初の提案の一つであっ た。最近では単に Kevo と Obliq のような言語に適用されているだけである。 このような言語を embedding ベースという。

• 前節で説明したように、継承は explicitly または implicitly に 区別することができる。embedding 継承の explicit な形は、古いオブジェク トの一部分を新しいオブジェクトに reassembing するものとして考えること ができる。embedding 継承の implicit な形は現存するオブジェクトのクロー ンを新しい attribute と共に拡張する方法である。

• embedding の explicit バージョンでは、指定したオブジェクトから、 メソッドとフィールドを複製する。例えば、回復可能 $cell$ は以下のようになる。 object cell: Cell is
    var contents: Integer := 0;
    method get(): Integer is
      return self .contents end;
    method set(n: Integer) is
      self .contents:=n end;
  end;
  object reCellExp:ReCell is
    var contents: Integer:=cell.contents;
    var backup: Integer:=0;
    method get(): Integer is
      return embed cell.get();
    end;
    method set(n:Integer) is
      self .backup:= self .contents;
      embed cell.set(n);
    end;
    method restore() is
      self .contents:= self .backup end;
  end;
  
• embed $o.m(\cdots)$ と書いてオブジェクト $o$ のメソッドを 現在オブジェクトに embed する。この embedding コンストラクトにより、 $get$ メソッドの implicit 継承と $set$ メソッドでの super$.set(n)$ の出現の両方を入れ替えている。

• embed $cell.set(n)$ の意味は $cell$ の $set$ メソッド (現在の「自身」を意味する selfを伴った)を実行する。$set$ のコード を $reCellExp$ に embeded し、$cell$ オブジェクトには影響を与えない。

• $get$ メソッドのコードはより冗長である。以下のように省略して書く ことができる。
  method get copied from cell
  しかし embed コンストラクトはまだ必要である。

• 型づけの問題を避けるために、 embed に続くオブジェクト (そのタイプではなく、オブジェクトそのもの)は、静的に知らなければならな い。この意味において、状況はサブクラス定義(スーパークラスは静的に知ら なければならない)に似ている。

• embedding の implicit バージョンでは、新しいオブジェクトに複製さ れるべきメソッドとフィールドの donor としてあるオブジェクトを設定する。 例えば、回復可能な $cell$ の例は以下のようになる。 object cell:Cell is
    var contents: Integer:=0;
    method get():Integer is
      return self .contents end;
    method set(n: Integer) is
      self .contents:=n end;
  end;
  object reCellImp: ReCell extends cell is
    var backup: Integer:=0;
    override set(n: Integer) is
       self .backup:=self .contents;
      embed cell.set(n);
    end;
    method restore() is
      self .contents:= self .backup end;
  end;
  これらの定義は、節 2.1 と 2.3 の(対応する)クラス定義とは大変異なってい る。

• extends 宣言は reCellImp のための donor オブジェクト $cell$ を表わす。 extends に続くオブジェクトは静的に知っていると 仮定する。この宣言の結果として、$reCellImp$ は $cell$ の attribute の 複製(状態は$cell$ とは異なる)を含むオブジェクトとなる。

• override の効果は、ホスト側で donor にあるメソッドを置換する。 embed コンストラクタはまだ必要である。

• オブジェクトは donor オブジェクトとは独立しているため reCellImp と reCellExp の定義は、スタンドアロン定義では 以下のように省略することができる。 object reCell: ReCell is
    var contents: Integer:=0;
    var backup: Integer:=0;
    method get(): Integer is
      return self .contents end;
    method set(n: Integer) is
      self .backup:= self .contents;
      self .contents:=n;
    end;
    method restore() is
      self .contents:=self .backup end;
  end
  

• また、以下のように定義することも可能である。 object reCellImp1: ReCell extends cell is
    var backup: Integer:=0;
    method restore() is self .contents:=
      self .backup end;
  end;
  reCellImp1.set:=
    method (n: Integer) is
      self .backup:= self .contents;
      self .contents:=n;
    end;