Coercion ベース表現解析

• full boxing の問題点は，プログラム全体(多相関数を使わないところ でも) で 高価な boxed 表現を使うことである．
• coercion ベース表現解析では，単相変数の値の表現では unboxed (untagged) を使い，多相変数として使われる値の表現では boxed (tagged) を使う．
• 多相関数が呼び出される場合のみ，高価な処理が行われ，プログ ラムの単相の部分は，大変効率的に処理される．
• 以下の $f$ の定義を考えよう．
  
  $$\hbox{\tt function}\ f\hbox{\tt <}a\hbox{\tt >}(x:a):a=\cdots x\cdots x\cdots$$
  
  
  $f\hbox{\tt <int>}(y)$ と呼び出す場所では，$y$ は整数値である．
• $y$ の型が int になり，$x$ の型は $a$ (多相型) である．
• この場合は多相 $y$ を boxing することにより， int を 多相 することができる．
• 仮パラメータの型は，少なくとも実パラメータの型と同じ だけの一般性を保っているだろう．これは，実パラメータは， 置換により仮パラメータに操作されうることを示している．
• この置換をもとにして，コンパイラは，適切に boxing 関数の分類を構 築することができる．
• 表 16.2 では， プリミティブ型( int， char， string) を boxing または， tagging でどのように値をラップするかを示している．

値としてのレコード，参照としてのレコード

• Tiger 言語のレコード(Java のオブジェクト，C の構造体へのポインタ) は，以下のいくかの演算を許す:
  1. 値があるか， nil でないか?
  2. 同じレコードか? (ポインタの比較)
  3. フィールドの値は何か?
  4. フィールドを一つ更新したい!
• しかし，C の構造体，ML のレコードは，ポインタではないし， nil にすることはできない．そのため (3) のみを許すことができる． 参照と(純粋な)値との本質的な違いである．
• 表現解析の重要性は，特に (1)，(2) と (4) を得ることはできない 場合に，(3) を得ることである．レコードを異なった形式に コピーすることができる．望みとあれば，2 ワードとして C の構造体， ML のレコードを 2 つのレジスタに保持し続ける．関数のパラメータとして， レジスタで，レコードを受渡す．
• これは，表現解析が，参照より (純粋な) 値に作用するということがで きる．
• (純粋な)値で構成される，レコードスタイル言語の例を与えるために，組 (tuple) 型を，表 16.2 に導入する．
• $(t_1,t_2)$ は，(例えば) 2 要素の組の型である(第一要素の型は $t_1$，第二要素の型は $t_2$)．組フィールド名を持たないレコードのよ うである．
• しかし，これらの型に(純粋な)値の意味を与える． 組として nil をテストしたり，組の値のフィールドを更新したり， 組に対してポインタの同等性をテストすることができない．
• これらは，設計上の選択である．レコードはフィールドを持ち， 組は持たないことは，参照と(純粋な)値を区別することとは関係ない．

再帰ラッピング

• int， char や int$\rightarrow$ char などの ような構造型のために，primitive ラップ(表 6.12で示した)は， 値を一つの boxed ワード に変換することができる．
• しかし，これではまだ不十分である．以下の例で示そう．

  
  let function get(l) = l.head.1
      function dup(x) = list{head=x,
          tail=list{head=x,tail=nil}}
      var tuple = (3,'a')
    in extract(dup(tuple))
  end
  

• unboxed 整数と unboxed 文字を持った，boxed 組を作ることに より tuple を primitive ラッピングすると，多相関数 get は， 直接 unboxed 整数を扱わうことになる．これは，許されないことである．
• この問題を解決するためには，再帰ラッピングを行う．最初に，構 成要素をラッピングし(ボトムアップ)，ラップされた型の組を構築する．
• 関数をラップするためには，引数と返答を再帰的にラップしなければならな い．
• 表 16.13 で再帰ラッピングを要約する．
• ( int$\rightarrow$ char) 関数 $f$ を再帰ラッピングする ためには，boxed の引数を持ち，引数を unwrap し，$f$ を適用し， 返答をラップする，新しい関数 $f$ を生成しなければならない．
• このように wrap の再帰定義は，関数パラメータの unwrap に依存している．または，その逆である．
• これらの primitive ラッピング関数は，実パラメータが多相変数 である場合機能する．
• しかし，仮パラメータの型が $a\rightarrow\:\:int$ または，$(int,a)$ ($a$ は多相型変数) の場合，実パラメータ全体を単 に box 化できない．その代わり，パラメータ(コンポーネント)は，box 化さ れた，unboxed 関数(組)を生成する．
• boxed 値を保持している型変数のためのシンボルとして $\bullet$ を 使おう．coercion ベースの解析では，どの型変数が使われるかを気にしなく てもよいため，使うことができる．
• それらは全て box 化された表現である．
• 変数 $y$ を 型$(int,char)$ から $(int,\bullet)$ に変換するために は，第一要素は，$y$ の第一要素からコピーし，第二要素は，$y$ の第二要素 に対して適用した $wrap_{char}$ である，新しいレコードを生成しなければ ならない．
• 関数 $f:t_1\rightarrow t_2$ を boxed した $\bullet$ にラップす るためには，$f$ を 表 16.3 で示す単一ポインタに再帰的にラップする．
• しかし，仮パラメータが $x:\bullet\rightarrow t_2$ の場合はそうし ない．
• 呼ばれた関数は，(box でなく)関数クロージャを期待する．返答の 値は，(box でなく)型$t_2$ にならなければならない．
• コンパイラは，表 16.4 に示す新しい関数を構成しなければならない．
• 多相関数は，単相コンテキストに返答を返す場合は，返答は unwrap さ れているに違いない．
• もし，返答が完全に多相とすると，表 16.2 または，表 16.3 から unwrapper を使うことができる．
• しかし， $(t_1,t_2\rightarrow \bullet)$ のようなであるとすると， 分割し，コンポーネントのいくつかを unwrap し，再構築し なければならない．
• この処理は，表 16.4 に示すように補足的に処理される．

効率

• coercion ベースの表現解析は，典型的なプログラムにおいて，多相変 数の instantiation (coercions が挿入されるに違いない)が，通常の 実行よりまれである，ということに依存している．
• 表現解析は，浮動小数点を多く使っているプログラムに対して， tagging または boxing が高価なデータ型には，partially には有効である (fully boxed に変換する方式において，多くの boxing/unboxing を必要とす る)．